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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)258号 判決

控訴人 日本火災海上保険株式会社

被控訴人 日本通運株式会社

主文

一、原判決を次の通り変更する。

二、被控訴人は控訴人に対し金一、〇五六万七、三四五円およびこれに対する昭和三七年二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、控訴人その余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金一、〇六四万〇、三二六円およびこれに対する昭和三七年二月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述と証拠の関係は

一、控訴代理人において

(1)  請求原因五、(原判決事実欄第二の六の(一)。………原判決五枚目裏二行目)保険金額「一九五六万五、四六四円」を「一九二九万七、四四〇円」に訂正すると述べ、

(2)  証拠〈省略〉

二、被控訴代理人において(証拠省略)………と述べ、

たほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

次の事実は当事者間に争がない。

(1)  被控訴会社は港湾荷役業者(ステベドア、通称に従い以下ステベと呼ぶことがある。)で訴外セーバーライン株式会社(Sabar LineCo.,Lta 以下セーバーと略称)の代理店大永航運株式会社から昭和三六年二月一二日横浜港に入港した貨物船アントニオ・タラボチヤ号(以下本船という)の荷揚の委託を受けたので社員本江久三を荷役監督(以下フオアマンと呼ぶ)として本船に乗船させ訴外横浜船舶株式会社の従業員(沖仲士)を使用して本船の船艙に積載航送されてきたカーボンブラツク八、二四五袋合成樹脂(レジン又はダウ・ポリエチレンとも呼ぶ)三、六五〇袋等の荷揚作業に当らせた。

(2)  右カーボンブラツクは本船三番ハツチに、合成樹脂は五番ハツチにそれぞれ積込まれていて両ハツチ間には約一五米の間隔があつた。訴外本江は同日午後七時三〇分頃から三番ハツチのカーボンブラツクの荷揚を始め休憩時間を除いて翌一三日午後二時三〇分頃まで間断なく右荷揚を行い、一方五番ハツチの合成樹脂については同月一二日午後九時三〇分からカーボンブラツクの荷揚と同一舷側で荷揚げを開始し翌一三日午前四時頃まで併行して荷揚作業が行われた。

二、成立に争のない甲第一号証、原審証人石井賢二の証言とその証言により成立を認めうる甲第四号証、原審証人永井和夫の証言とその証言により成立を認める甲第二号証、甲第八号証の一、二、甲第一三号証弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証を綜合すると次の事実が認められる。

本件合成樹脂三六五〇袋は日綿実業株式会社(以下日綿という)を荷送人、旭興業株式会社(以下旭興業という)を荷受人とする旭興業とセーパー船舶株式会社間の運送契約に基き米国テキサス州ヒユーストン港で船積され積荷には控訴会社の保険がかけられていた。被控訴会社によつて右合成樹脂の荷揚が開始される直前に五番ハツチで検数された時には右三、六五〇袋のうち四〇袋に破損があつたのでハツチ内で修繕され、三袋は破損して内容物が散乱していたので掃き集められたけれどもその段階においてはカーボンブラツクによる汚損は尠くとも外形的には認められなかつた。被控訴会社の手によつて艀舟に積下された合成樹脂は本船に出張していた税関吏の監視の下で艀舟ごとシートで覆ひをされ、ロープで緊縛の上封印された。その後同月一六日頃陸揚のため右シートを取除いたところ合成樹脂の各袋は悉くカーボンブラツクの微粉によつて汚され袋の破損した九八袋の内容は真黒になつていたので事態の容易ならざることを知つた荷受人側は直ちに海事鑑定人の臨場を求めて被害の調査に当つたところ袋の外形には破損のない各袋も悉く袋口のミシンの縫目を通じカーボンブラツクの粉末が侵入して全品薄墨色を呈し前記袋の破損した九八袋分と共に完全な商品として売買することができない程汚損されていることが判明した。

三、以上一、二の事実に原審証人石井賢二の証言により認められる合成樹脂は摩擦により容易に静電気を起しカーボンの微粒子を吸引する性質を持つている事実を併せ考えると本件合成樹脂の汚損は本船に積載されていたカーボンブラツクの微粒子の付着によって惹起されたものであることは疑を容れる余地がなくこの認定を覆すべき資料はない。そしてその汚損を生ずる機会としては尠くとも次の三つの場合を考えなければならない。

(イ)  船積の時。

(ロ)  航送の途中。

(ハ)  本件荷揚の時。

よつてこの各場合の汚損の可能性と蓋然性を検討する。

(1)  前記甲第一号記、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一〇号証及び原審証人永井和夫の証言によると本船に積載の前記カーボンブラツク約七、〇〇〇袋は合成樹脂と共にヒユーストン港で船積されたもので、その他の港で船積されたものを合せ本船積載のカーボンブラツク約一三、〇〇〇袋の荷揚に当つてハツチで検数された際には既に其の一〇六袋はカバーが僅かに破れ、二五袋は空になつていたことが認められるから船積の際にも相当粉末が飛散しそのために他の船積貨物が汚染される条件があつたと推認できるが本件のように合成樹脂と同時荷役がされた証拠はないし、また前示甲第一号証と永井証言によれば荷受人側の検数員であつた永井和夫も合成樹脂をハツチ内で検数した際にはカーボンブラツクによる汚損を認めていなかつたことが明らかであるから船積にあたつては未だ汚損はなかつたと認めるのが相当である。

(2)  航海中の汽船は各ハツチを閉鎖しているのが通常であると思われるし、本件の場合は、前認定の通り、カーボンブラツクと合成樹脂の両者は三番と五番のハッチに分載せられており航海中に貨物の積換を行つたというような異常事態を認め得る証拠のない限り本船の航海中にカーボンブラツクの微粉が合成樹脂に付着するような機会はなかつたと認めるのが相当である。

(3)  公文書として成立を認める甲第七号証と前示甲第一三号証、原審証人永井和夫の証言に弁論の全趣旨を綜合すると本件合成樹脂とカーボンブラツクが同時に同舷側で荷揚げされていた二月一二日午後九時三〇分から翌日午前四時頃までの間は常時北北西八米前後の風が吹き二月一三日午前一時二五分には瞬間最大風速一三米六〇、に及び本船が一五番ブイに船首を一個所で舫つていた関係から常にカーボンブラック荷役中の三番ハツチは合成樹脂の存した五番ハツチの風上になつていたことが認められ、この事実に、前記の通り右両ハツチの間隔は一五米しかないこと、原審証人永井和夫、同青木文作、同関正雄、同石井賢二の各証言で認められるカーボンブラツクの荷役では常に甲板、船内が黒く汚れ陸上の倉庫でさえ特別のものが使用される位であることを併せ考えれば(1) で認定したような乱袋(被控訴人によつて荷揚された前記八、二四五袋中の乱袋の数量は必ずしも明かでないが、反証のない限り、少くとも前記認定の一〇六袋の半数以上のものが含まれていたと推認する。)のある本件カーボンブラックの前記荷揚作業中にその粉塵が舞上がり、これが前示の風に煽られたため、風下の五番ハツチは常時その粉塵を浴び乍ら合成樹脂の荷揚げがなされ積下し積重ね運搬等の摩擦で静電気を生じた合成樹脂はミシンの縫目を通じ(破袋したものは破口から)空中に舞うカーボンブラツクの微粉を吸引したと認めるのが相当である。

被控訴人は本件合成樹脂のカーゴボートノートには汚損事項の記載がないことからしても控訴人主張の如き汚損の事実はないといい、前に認定した通り本件合成樹脂のカーゴボートノート(甲第一号証)には四〇袋のカバー破れと三袋掃き寄せのリマークがあるのみでカーボンブラツクによる汚損に関する記載がなく、また弁論の全趣旨により成立を認める乙第一号証によるとカーゴボートノートは外航船の貨物受渡しを証明する書類として本船が発行し、荷受人、陸揚業者等の貨物受取側と本船の一等航海士が署名し本船の船積から陸揚げまでの貨物に対する責任の限界を示す書類として取扱われてきたことが認められるのでカーゴボートノートは荷揚げ完了時の状態において作成せらるべきものであると考えられるけれども、一方において原審証人永井和夫、同井上義勝らの各証言によると実際はハツチ内において艀舟に積下ろす荷揚直前の状態において検数して作成するのが慣例となつており、本件のカーゴボートノート(甲第一号証)もハツチ内で作成されたことが認められるし、更に弁論の全趣旨により成立を認める乙第三号証によると運送人セーパーの代理店大永航運株式会社の要請によりインターナシヨナル、インスペクシヨン、アンドテスチングコーポレエシヨン(略称インテコINTECO)の荷揚時に行つた貨物検査報告書ではカーボンブラツクの粉塵によりそのカーボンブラツクの近くに積込まれてあつた商品の袋に汚染が生じたことを認めておるのでこれらの事実を彼是考え合わすときは右カーゴボートノートにカーボンブラツクによる汚染に関する記載のないことは未だ前記認定を覆すに足りない。

四、被控訴人は更に合成樹脂と同一時間内に五番ハツチから荷揚された小麦粉は同じくカーボンブラツクの荷揚と併行して行われたに拘らず汚損された事実がないから合成樹脂の汚損は控訴人の主張する被控訴会社の荷揚によつて惹起したものではないと主張するが、この点に対する当裁判所の判断は原判決の判断と同一であるから、原判決理由第三項の該当部分(一四枚目表五行冒頭から同一五枚目表二行末尾まで)をここに引用する。

五、ステベ業者である被控訴会社が本船のフオアマンとして派遣した社員訴外本江久三の過失についての判断。

(1)  控訴人は本件カーボンブラツクの荷揚にあたり訴外本江が施行した荷役方法は網モツコに積込みの際カーボンブラツク入りの袋を投げて集荷し、クレーンにより艀舟に急激に下し、更にクレーンからモツコの一方を外して他方をクレーンで持上げ一度にカーボンブラツクの袋を引ずり下す乱暴なものであつたため一部の袋が破損してカーボンブラツクの粒子が飛散し、合成樹脂全部を汚損させるに至つたと主張するが、原審証人永井和夫の証言によるとハツチ内に於て通常荷物積込みの際行われる程度の方法で集荷作業が行われその際カーボンブラツクの粒子が飛散していた事実が認められるが右はカーボンブラツクの荷役にあたつて通常惹起せられるものであることもその証言により認められ、他にその集荷に際し特別に乱暴な作業が行われたこと、或は艀舟に積下しにあたり控訴人が主張するようなモツコの一方を外す方法がとられたことを認めるに足る証拠はないから控訴人の右主張は採用できない。

(2)  しかし二、において認定した通り本件合成樹脂がカーボンブラツクによつて汚損されたのは両者の荷揚を同一時間に同一舷側において行い、しかもカーボンブラツクの荷揚げが風上においてなされたことに由来し、右はフオアマンたる訴外本江久三が荷掃げにあたり当然払うべき注意義務を怠つた過失によるものと認むべくこの点に関する当裁判所の判断は原判決が理由第四項に説示するところと同一であるから同判決一五枚目表三行冒頭以下同一六枚目表八行までをここに引用する。

六、右本江久三の過失により本件合成樹脂を汚損した行為は同人が被控訴会社の業務として右合成樹脂を荷揚するにあたりその所有者(旭興業が所有者であることは後記の通り)に加えた不法行為であると同時に運送人である訴外セーバー及び被控訴人の運送委託者(旭興業が運送委託者であることは前記の通り)に対する運送契約上の債務不履行に当る行為でもあるというべきである。

被控訴人はこの点について、

(1)  控訴人の本訴は被控訴会社の不法行為を主張するものであるが主張事実はそのまま運送人である訴外セーバーと被控訴会社(本件において運送人とは荷役業者である被控訴会社をも含むというべきである。)の旭興業に対する運送品引渡債務不履行にも該当し、この場合不法行為に基くものと債務不履行に基くものと二つの損害賠償請求権は競合の問題を生ずる余地がなく、専ら後者の請求権のみが成立することは国際海上物品運送法(以下単に同法という)第一四条の規定上明白である。即ち、もし不法行為責任を認めると損害と加害者を知つた時から三年間賠償請求ができることになり、このことは同法条が運送人の責任を運送品引渡後一年以内に裁判上の請求がなされないときは消滅させることにしている趣旨を没却するからである。

(2)  また被控訴会社は運送人に含まれないとすれば(イ)同法第三条第一項は運送人は自己またはその使用する者が運送品の荷揚げと引渡しについて注意を怠つたため生じた運送品の滅失損傷について運送人の損害賠償の責を認めているから荷役業者である被控訴会社の行為による損害については運送人である訴外セーバーのみが賠償責任をを負うべきである。荷役業者である被控訴会社が責を負う場合はカーゴボートノートにパイステベドアの記入がある場合に限るが本件のカーゴボートノートにはその記入がない。(ロ)運送人である訴外セーバーの責任が同法第一四条でまたは被控訴人主張の如き運送人と旭興業間の運送契約上の免責約款により既に消滅しているのに荷役業者に過ぎない被控訴会社の責任のみが残存する筈がなく荷役業者の責任も運送人と同時に消滅すると解すべきである、と主張するので判断する。

先ず、同法制定の経過をみるに、同法は附則(1) で明らかな通り一九二四年八月二五日ブラツセルで署名された船荷証券に関する規則の統一のための国際条約の実施のため制定せられ、条約が日本国について効力を生じた日である昭和三三年一月一日から施行されたものであり従来我国海運業は我国が右条約を批准していなかつた関係から国際競争上著しい不利益を受けていたのでその障害を除くことに立法の大きな目的があつたことは当裁判所に顕かなところである。従つて同法は商法海商編の関係法規とは一般法と特別法の関係にあるということができる。

ところで同法第一四条は運送人の責任について運送品を引渡した日から一年以内に裁判上の請求がなされないときは消滅する旨を定めており、右は商法第七六六条第五六六条に定める船舶所有者の責任の短期消滅時効の規定に相応するが前者においては権利行使の方法が裁判上の請求に限定され、またこの一年の期間は除斥期間であると解される点において同法は運送人の責任消滅について商法と若干異なる規定を設けている。併しまた他面において同法第三条第一項第四条第一項は運送人の損害賠償責任の発生について商法第七六六条、第五七七条と、同法第一四条但書は悪意の運送人の責任に干し商法第五六六条とそれぞれ基本的には同趣旨の定めをしているし、更に同法第二〇条第二項は損害賠償額の範囲等に関する商法第五七八条ないし第五八一条の規定を準用している。このような商法の規定と国際海上物品運送法の規定の対応関係から考えると、国際海上物品運送法における運送人の責任に関する規定は、商法における運送人の責任に関する規定と同様に、運送人の運送契約に基づく債務不履行責任についてのものであると解するのが相当である。そして、不法行為に基く損害賠償請求権と債務不履行に基く損害賠償請求権とは元来法律要件を異にする別個の請求権であるから運送品の滅失ないし毀損について、それが運送人の債務不履行であると同時に運送人または荷役業者の不法行為となる要件が具備しているときは右運送人に対する債務不履行に因る損害賠償請求権と運送人または荷役業者に対する不法行為に因る損害賠償請求権とが競合して成立するものであつて、この場合不法行為に因る損害賠償の請求については、国際海上物品運送法第一四条、商法第七六六条、第五六六条等の適用はないものと解すべきである。

また国際海上物品運送法第三条は運送人の運送契約上の責任を定めた規定であつて被控訴人のいうようにこれあるが故に荷役業者の不法行為責任を否定すべき理由はないし、またカーゴボートノートにバイステベドアの記入がないから荷役業者に不法行為責任がないとする原審証人本江久三の証言は原審証人永井和夫、井上美勝の証言と対比し採用し難く他に右事実を認むべき資料はない。

なほ運送人と荷受人旭興業との間に被控訴人主張の如き免責約款の存したことを認めうる証拠は何もない。

従つて被控訴人の前記主張はすべて採用できない。

七、本件合成樹脂三、六五〇袋が旭興業の所有に属するものであることは当審証人鏑木英明の証言により成立を認めうる甲第六号証及び同証言によりこれを認めることができる。そして右合成樹脂がカーボンブラツクによつて汚損したのは被控訴会社の業務として本船のフオアマンとなり荷揚の指揮監督に当つた被控訴会社社員訴外本江久三の過失に基くことは第五項において認定したところであり、被控訴会社は右訴外人の選任および事業の監督につき相当の注意をなし又は相当の注意をなしても尚本件損害を生じたことについて特段の主張、立証をしないから被控訴会社は本江の使用者として同訴外人が右合成樹脂の所有者に加えた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

よつて進んで合成樹脂の汚損による損害額を調べる。

前示甲第四号証と原審証人石井賢二、当審証人鏑木英明の証言によると合成樹脂の汚損事故を知つた荷受人兼所有者旭興業、荷送人日綿、保険者である控訴会社の委嘱を受けた前示インテコ海上検査部は石井海事鑑定人を中心に本件合成樹脂の汚損等損害の程度を調査した結果不足量は六九二・二ポンドその全部が損害であり、また実在量は一八一・八〇九・八ポンドで全部がカーボンブラツクによつて汚損していたので汚損のない完全品質の合成樹脂の昭和三六年二月当時における市場価格はキロ当り二八六円であるが右のように汚損された合成樹脂の市場価格はキロ当り一三〇円に過ぎないから価格として五四、五%の損害に当るので本件汚損によつて実在量の五四、五%に当る九九〇八六・三四一ポンド相当量について全損であることが判明したことが認められる。

更に当審証人鏑木英明の証言により成立を認めうる甲第五、六、一四ないし一六号各証と同証言に弁論の全趣旨を綜合すると次の通り認めることができる。

インテコの右鑑定に基づき本件合成樹脂に対する五万三、六〇四ドルの保険者である控訴会社は本件汚損事故を保険金支払の対象となる事故と認定し、旭興業の委任により同社に代つて合成樹脂の不足量六九〇・二ポンドに対する保険金二〇二・七二六二ドル(換算金七万二、九八一円……円位以下切捨)、汚損による全損量九九、〇八六、三四一ポンドに対する保険金二万九、一〇三・七三九ドル(換算金一、〇四七万七、三四六円……同)の内訳をもつて支払を請求した訴外日綿に対し昭和三六年四月二七日保険金一、〇五五万〇、三二六円を支払い、翌二八日同じく日綿の請求に基づき旭興業がインテコ海上検査部に鑑定料(検量代)として支払つた金九万〇、〇〇〇円を本件事故査定上の必要支出で旭興業の損害と認定して支払つたので控訴会社が支払つた保険金の総額は合計一、〇六四万〇、三二六円となつた。

以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば控訴会社が支払つた保険金一〇五五万〇、三二六円の内一〇四七万七三四五円はインテコ海上検査部がカーボンブラツクの汚損による全損相当量に対する損害として査定した範囲内の金額であり、鑑定料九万〇、〇〇〇円とともに被控訴会社の被用者の過失に基く本件合成樹脂の汚損によつて訴外旭興業が蒙つた損害であるから被控訴会社は同訴外会社に対しこれが賠償義務があり、控訴会社は右合計金一〇五六万七三四五円保険金を右訴外会社に支払うことによりこれと同額の範囲で訴外会社の被控訴会社に対する損害賠償債権を代位取得したというべきである控訴人は右の外前記合成樹脂の不足量六九〇・二ポンドの滅失に対する保険金七万二、九八一円を訴外会社に支払つたとしてこの金額の請求をもするようであるが、右六九〇・二ポンドの滅失分はカーボンブラツクにより汚損せられたものでないことは明らかであるのに控訴人はこの分についてもカーボンブラツクの汚損による損害として請求し、滅失による損害としてはなんら主張するところがないので右部分に関する控訴人の請求は失当というほかはない。

八、よつて、控訴人の本請求は右認定の一、〇五六万七、三四五円とこれに対する保険金支払後であること明らかな昭和三七年二月一日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で正当である。なほ控訴人は遅延損害金につき右の範囲を超え年六分の割合により支払を求めるのであるが本件は不法行為に基づく損害賠償の請求で商行為に因る損害賠償の請求ではないから失当である。

よつて控訴人の請求は右認定の範囲すなわち主文第二項掲記の範囲で正当として認容し爾余は失当として棄却すべきものであるからこれと結論を異にした原判決を変更することとし、民事訴訟法第三八四条、三八六条、第九六条、第八九条、第九二条に従い主文の通り判決する。

(裁判官 岸上康夫 小野沢龍雄 田中永司)

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